2019年11月19日に日本賃貸住宅投資法人と日本ヘルスケア投資法人が2020年4月1日を基準日に合併すると発表しました。日本賃貸住宅投資法人のスポンサーがオークツリーから大和証券に変わった時点で大抵の投資家さんがこのことは予想していたと思います。

合併の目的

 現在のJ-REIT市場は、各REITの業績は堅調であるものの、市場全体では60銘柄を超え、競争が激化している。2019年10月末時点でJ-REIT市場に上場する全銘柄の運用資産の取得価格合計は約18.9兆円、時価総額は約17.0兆円であり、投資対象セクターもオフィスを中心とした構成から、商業施設、居住用施設、物流施設、ホテルやヘルスケア施設にまで、多種多様なものになっている。両投資法人は、更なる成長を実現し、投資家からJREIT市場において選好されるためには、適切な施策を迅速に実行することが競争力の確保と差別化のために必要であると考えている。

 日本賃貸住宅投資法人はその名の通り「住宅特化型REIT」で、東京都23区を含む3大都市圏を中心に、全国の賃貸住宅へ分散投資を行っています。2019年9月期まで物件の入替え(既存物件の譲渡や新規物件の取得)によるポートフォリオの質の向上、稼働率の改善等のオペレーション全般の強化、有利子負債費用の低減等によるコスト削減に取り組みました。その結果、1口当たり分配金は2019年9月期において2,040円となり、また、11月19日時点において、合計193物件(取得価格総額2,278億円)により構成されるポートフォリオを運用し、その発行済投資口の総口数は1,640,060口となっています。
 一方で2019年5月に公表した新規中期目標において、ポートフォリオの質の向上を優先課題とした物件入替戦略を掲げ、その後順調に入替えを推進しているものの、完了までに一定の期間(3~5年間程度)を要するものと見込まれています。

 日本ヘルスケア投資法人においては、社会的需要の高まりから生じるキャッシュ・フローの獲得機会を捉え、また、高齢者向け住環境の整備という重要政策の実現への貢献を目指してきました。2019年11月19日時点において、合計23物件(取得価格総額197億円)により構成されるポートフォリオを運用し、その発行済投資口の総口数は74,632口となっています。
 一方で資産規模の小ささを要因とする投資口価格の低迷等により外部成長の機会には制約がある状況としています。

両投資法人の合併までのスケジュール

日本賃貸住宅投資法人

①合併契約締結日:2019年11月19日 
②投資主総会基準日公告日:2019年11月20日(予定) 
③投資主総会基準日:2019年12月13日(予定) 
④投資主総会開催日:2020年2月13日(予定)
⑤合併効力発生日:2020年4月1日(予定) 
⑥合併登記日:2020年4月上旬(予定)


日本ヘルスケア投資法人
  
①合併契約締結日:2019年11月19日 
②投資主総会基準日公告日:2019年11月20日(予定) 
③投資主総会基準日:2019年12月13日(予定) 
④投資主総会開催日:2020年2月4日(予定) 
⑤上場廃止日:2020年3月30日(予定) 
⑥合併効力発生日:2020年4月1日(予定) 
⑦合併登記日:2020年4月上旬(予定)

 日本賃貸住宅投資法人が合併存続会社となり日本ヘルスケア投資法人は吸収されることになります。合併後は大和証券リビング投資法人という名称になります。合併後一口当たり分配金は2,150円と予想されています。


20191125大和証券リビング投資法人スキーム図
【出典:日本賃貸住宅投資法人合併他一連の取引に関する説明会資料より】

 日本ヘルスケア投資法人は取得対象たるヘルスケア施設が市場に少ないため外部成長が鈍化していたのだと考えていました。日本の高齢化社会が確実にプラスに働くヘルスケア施設を運用対象とする日本ヘルスケア投資法人のことは応援していました。現に2019年4月期の決算短信にも「資産運用で培ってきた様々な関係先(事業会社、金融機関、大手不動産仲介会社及び不動産仲介業者等)との強固な関係構築に基づく多様な物件取得ルートを活用した物件取得に努めています。また、本投資法人の投資対象であるヘルスケア施設の取得機会の拡大・促進を図るため、ヘルスケア施設専門の投資チームを設置し、既存の物件取得ルート以外の新たな物件情報の提供先やソーシング先(ヘルスケア施設のオペレーター、デベロッパー等)との関係構築も進め、物件情報を収集しています。」としてたため、必死こいて投資対象に見合う物件を探しているものと感じていました。

 しかし、同日に合併他一連の取引に関する説明会資料の図をご覧頂ければ分かると思いますが、スポンサーとスポンサー関連企業がべっとりと大和証券リビング投資法人に張り付いています。スポンサーブリッジファンドに総額215億円9物件の物件があるようですが、日本ヘルスケア投資法人が毎期少しずつ取得を続けていけば投資口価格はもっと上昇していたのではないかと思います。もう一つのブリッジファンドにも総額411億円19物件を抱えています。結局物件が無いのではなく物件はあるが取得できなかったということです。この2つのブリッジファンドはスポンサーである大和証券の連結対象となっていると考えられます。大和証券としては投資法人の公募増資を利用し一気に売却し多額の売却益を得ようと模索していたのだと思います。つまりブリッジファンドからの取得提案は資産運用会社サイドからではできなかったのではないかと推察します。

 大和証券は2020年3月第2四半期の決算短信が公表されています。2019年4-9月までの四半期純利益は33,403百万円と前年同期比から減少しています。その黒字も多額の特別利益計上26,885百万円によるものです。大和証券の本業と言えるリテール部門、ホールセール部門は衰退していく流れです。アセットマネジメント部門とその他部門の事業も上手くいっていないのではないでしょうか。その他部門(ベンチャーキャピタル的な業務が含まれている部門)2019年3月期の連結決算では経常損益で1,093百万円と大失敗しています。特に2019年3月期は全ての部門で減益となっています。私は今回の合併については各投資法人の将来のことを考えた訳ではなくただのスポンサー生き残り策に巻き込まれた合併だと考えています。

 同じ大和証券をスポンサーとする大和証券オフィス投資法人も最近は特に外部成長の動きが遅い状態が続いています。個人的にはこれもスポンサーには物件はあるが公募増資でないと売らないというような制約が働いているのではないかと疑っています。その内、資産規模の小ささを要因とする投資口価格の低迷等により外部成長の機会には制約があるとか言いだし大和証券リビング投資法人と大和証券オフィス投資法人が合併するという可能性もあると思います。