2019年12月期決算のJ-REITのNAV倍率、含み益、稼働率の推移を見ていきます。

・NAV倍率
6・12月決算投資法人NAV倍率推移
6・12月決算投資法人NAV倍率推移2
 
 2019年12月期の株式マーケットは米中貿易協議をめぐる報道を受けて市場心理が揺れ動いていたため、J-REIT市場は米中対立への過度な警戒感が一時的に和らいだことや、日銀による追加緩和観測が後退し長期金利が上昇したため、利益確定売りが優勢 になりました。複数銘柄の公募増資(PO)発表も、需給バランスの観点から売り材料の一部となったようです。
 そんな中でしたがNAV倍率はどのJ-REITも前期よりは上昇しました。もちろんこのグラフは決算期ベースで集計しているため今後2020年1月~3月と1倍を大きく上回ってくるわけでして・・・。個人的にはどのJ-REIT銘柄も現状は買いだと思っています。ポートフォリオを見直す良い機会だと思います。特にホテル系や物流系に人気が集中していたため、あまりパッとしなかったレジデンス系J-REITに人気が戻りつつあります。こういった、株式市場や経済環境による影響が大きくなると毎回見直されるんですよね。
 昨今の投資口価格の暴落は、欧州、アメリカ、中東など、広範な国・地域におけるコロナウイルスの感染拡大が確認されたことから始まっています。これにより、発生地である中国やアジアの問題と油断していた欧米人が、急に焦り始めウイルスが無限に感染し、世界中の経済が麻痺するというハリウッド映画並みのシナリオを妄想しているように感じます。
 中国では新規感染者が減少しているという発表もあるのですが中国は強権的なのでその情報の信頼性は微妙というところで、仮にウイルス患者が減少しワクチンが開発されたとしてもこれが中国の株価の回復からJ-REITの投資口価格の回復までに至るまでは最低でも2~3ヶ月程度はかかるのではないかと考えています。


・含み益
6・12月決算投資法人含み益推移
6・12月決算投資法人含み益推移2

 含み益は鑑定評価額-帳簿価格で算定しています。期末の帳簿価額は取得時の帳簿価額から減価償却費を引くことで算定されます。取得時の帳簿価額は取得価格では無いというところがポイントで、取得価格はあくまでも不動産、信託受益権の取引価格のことを指します。取得時の帳簿価額はその取引価格に取得時に要した費用を加えて金額です。取得時に要した費用とは不動産であれば不動産取得税、取得時のAM報酬(アクイジションフィーと言います。)、不動産のデューデリジェンスに係る弁護士報酬や鑑定会社に支払う鑑定評価報酬、ER会社に支払うエンジニアリングレポート作成報酬、そして仲介手数料と多岐にわたりこれらの金額が取得時の帳簿価額に含まれます。ときどきJ-REITのプレスリリースで鑑定評価額と同様の価格で取得している投資法人がありますが、これは取得時の帳簿価額が鑑定評価額すなわち時価よりも高い価格で取得していることを意味するのでJ-REITの投資家さんにとって良い話ではありません。こういった場合は資産運用会社ではなくスポンサーの意向が働いている場合が多いので投資家さんにとっての信用力を評価するポイントだと思います。
 2019年12月期決算のJ-REITはポートフォリオ全体から見ると含み益は常に上昇していっています。これは鑑定評価額が上昇しているケースもありますが、現状は毎期の減価償却費により帳簿価額が減少しているために差がでています。日本ビルファンド投資法人は初のJ-REIT銘柄ということもあり立上げが早くそれにより最も昔から減価償却費を計上してきたわけなので含み益は上昇する一方ということになります。


・稼働率
6・12月決算投資法人稼働率推移
6・12月決算投資法人稼働率推移2

 6月・12月投資法人の稼動率はグラフで見ると日本プライムリアルティ投資法人の稼働率がまた99%台に戻りました。微増ではありますがフロンティア不動産投資法人やジャパンエクセレント投資法人も前期よりも稼働率を上げています。競争力高い物件を運用していれば稼働率は早期に回復できるということがわかります。
 しかし、投資家さんが気になるのははオフィスビルの稼働率ではなくホテルの客室稼働率であるということだと思います。ジャパン・ホテル・リート投資法人の12月時点の客室稼働率は変動賃料を導入している21棟のホテルで83.9%という水準です。香港や東南アジアの国々において12月として過去最高を記録しており、、韓国人旅行者の減少があったにせよ、前年同月比16.7%増加となった一方で、韓国が前年同月比63.6%減少したことが影響し、全体としては4.0%減少の結果となっています。韓国人旅行者が半分以上減ってもポートフォリオからすると4%程度の減少なら大きなダメージとはなっていないと感じます。
 同様のことはインヴィンシブル投資法人にも言えると思います。インヴィンシブル投資法人は全ホテルの客室稼働率をプレスリリースで開示していますが、国内ホテル客室稼働率はの2019年12月期が84.6%と2019年8月のピーク時である91.4%からは毎月減少していますが、2018年12月の客室稼働率が88.8%ですから奇しくも4%台の減少となっています。2020年2月以降の客室稼働率は大きく落ちると思われますが、ホテルは宿泊がキャンセルになるとキャンセル料を取るホテルが多いので、客室稼働率の減少=観光はダメと考えるのは時期尚早な気がします。個人的には賃料を払えなくなるというテナントは発生しないのではないかと考えています。