2020年5月期決算のJ-REITのNAV倍率、含み益、稼働率の推移を見ていきます。

・NAV倍率
2020802J-REIT(5月・11月決算)・NAV倍率推移
2020802J-REIT(5月・11月決算)・NAV倍率推移2
 
 2020年5月の株式マーケット月初は米国の経済指標の悪化を受けて、反落して始まりました。その後、新型コロナウイルスをめぐる米中対立への警戒感が強まりました。しかし、米中貿易協議の合意事項の履行について両国が電話会談したことを好感し、大きく上昇しました。経済活動が再開に向かうとの期待も広がり、東証REIT指数は5月11日には一時1,700ポイントを上回りました。ただ、その後は利益確定売りに加え、ホテルを中心とするインヴィンシブル投資法人がテナント賃料の免除や分配金の減額を発表したことを嫌気して、軟調な動きになりました。4月末の東京都心のオフィス空室率は、2か月連続で上昇していましたが、それでも低い水準です。国内でも緊急事態宣言の解除が進み、経済活動が再開に向かうと安心感が広がりそうです。ホテル系J-REITなどの分配金引下げは懸念材料ながら、J-REIT市場は3月の急落で悪材料は大方織り込んだとみらていました。内外の中央銀行が金融緩和姿勢を強める中、予想分配金利回りについても下振れの可能性はあるものの、相対的に高い水準を維持するという状況でした。
 日本プロロジスリート投資法人が含み益の影響でとんでもなく高い数値となりしまたが、他の投資法人は大方NAV倍率は減少しています。ちょうどこの頃から他の投資商品よりも相対的に利回りが高いということが認知され現在の投資口価格水準まで回復してきました。コロナウイルスが広まる前の投資口価格の水準にはまだ遠いところです。
 

・含み益
2020802J-REIT(5月・11月決算)・含み益推移
2020802J-REIT(5月・11月決算)・含み益推移2

 含み益は鑑定評価額-帳簿価格で算定しています。期末の帳簿価額は取得時の帳簿価額から減価償却費を引くことで算定されます。最近は苦境に立たされているホテルですが大江戸温泉リート投資法人の鑑定評価額が前期からどれだけ変動しているかというと大きな影響は大江戸温泉物語レオマリゾートくらいです。決算短信の不動産鑑定評価書の概要を見ると鑑定NOIが変動していないことが解ります。大江戸温泉リート投資法人の物件の賃料は大江戸温泉物語グループの2020年2月までの年間業績に基づき算定されるということから収益は変動無しとしながらも保守的に10百万円減少させたというような鑑定評価額になっています。

大江戸温泉物語レオマリゾート:8,910百万円→8,870百万円(▲40百万円)
大江戸温泉物語伊勢志摩:3,840百万円→3,830百万円(▲10百万円)
伊東ホテルニュー岡部:2,820百万円→2,810百万円(▲10百万円)
大江戸温泉物語あたみ:3,220百万円→3,200百万円(▲20百万円)
大江戸温泉物語土肥マリンホテル:2,030百万円→2,020百万円(▲10百万円)
大江戸温泉物語あわら:2,000百万円→1,990百万円(▲10百万円)
大江戸温泉物語かもしか荘:1,270百万円→1,260百万円(▲10百万円)
大江戸温泉物語伊香保:1,380百万円→1,370百万円(▲10百万円)
大江戸温泉物語君津の森:862百万円→859百万円(▲3百万円)
大江戸温泉物語長崎ホテル清風:2,570百万円→2,570百万円(-)
大江戸温泉物語幸雲閣:1,220百万円→1,220百万円(-)
鬼怒川観光ホテル:6,140百万円→6,130百万円(▲10百万円)
大江戸温泉物語きのさき:2,650百万円→2,650百万円(-)
大江戸温泉物語東山グランドホテル:1,480百万円→1,470百万円(▲10百万円)

 ポートフォリオ上は含み益を計上しているので直ぐに売却したら売却損発生で赤字にとはならないでしょうが、実際このタイミングで売却するのは難しいと思います。阪急阪神リート投資法人は商業施設が主力なのでこちらの変動も気になりましたが商業施設も鑑定評価額は下落しています。底地になっている商業施設は下落幅は小さいですが特に大阪府の商業施設が大きいです。
 阪急阪神リート投資法人もその他の投資法人についても鑑定評価額は下落していますが、こちらも帳簿価額よりも高い鑑定評価額は維持しているので引き続き含み益が発生しています。


・稼働率
2020802J-REIT(5月・11月決算)・稼働率推移
2020802J-REIT(5月・11月決算)・稼働率推移2

 5月・11月投資法人の稼動率は良好でした。現状ではオフィスビル、レジデンスの稼働率は良好です。大和証券オフィス投資法人は1棟稼働率が低い物件がありますがほとんどが100%となっており高いパフォーマンスを発揮できているのではないでしょうか。ユナイテッド・アーバン投資法人も同様です。ただ、こちらはグランルージュ栄(89.9%)、UURコート札幌南三条プレミアタワー(90.1%)と地方のレジデンスの稼働率が安定していないので地方物件のリーシングに力を入れて欲しいですね。それでもオフィスビル、レジデンス2つのアセットの安定性は高いと考えられます。平和不動産リート投資法人は下げていますが、こちらの投資法人の物件はオフィスビルは中型クラスであり、レジデンスは100%で安定すること自体が珍しいのですが、もう97%台はキープして欲しいところですね。少し前まではホテルの収益性の高さが目を引いていましたが、今は物流施設に期待が寄せられています。大江戸温泉リート投資法人の稼働率はオペレーターへの稼働率ベースでは100%なのですが、実際の客室稼働率で見るとさんざんですね。実際に稼働しているホテルはわずか4棟です。1番高い客室稼働率を示している大江戸温泉物語伊勢志摩が7月時点で46.2%と前年同月比▲47.3%、次いで大江戸温泉物語長崎ホテル清風が20.7%前年同月比▲76.1%という結果です。せめて7-8月の夏休みシーズンまでにはコロナウイルスは治まって欲しかったところですが、7月26日には企業に「在宅7割」要請される事態となっています。ここ1-2年はやはりホテル系J-REITは様子見となりそうです。