2020年10月期決算のJ-REITのNAV倍率、含み益、稼働率の推移を見ていきます。

・NAV倍率
20210103J-REIT(4・10月決算)NAV倍率推移
20210103J-REIT(4・10月決算)NAV倍率推移2
 
 2020年10月前半のJ-REIT市場は、やや売りに押されました。東証が売場を停止した2020年10月2日は、トランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染したと伝わり、株式市場とともに下落しました。その後、トランプ氏の早期退院やGoToトラベルの期間延長に対する期待などを背景に、東証REIT 指数は10月7日には一時1,760ポイントを上回りました。しかし、利益確定売りに加え、東京都心のオフィス空室率の上昇や日本ビルファンドの過去最大規模の公募増資による需給懸念も重しとなり、やや売りが優勢になりました。
 東京都心のオフィス空室率はまだ低い水準です。しばらくオフィス市況の軟化は続くとみられますが、早晩、景気の持ち直しとともに、市況の底打ち観測が出てくると安心感が広がりそうです。GoToトラベルによる観光事業持ち直しへの期待や、外資系の大手不動産ファンド等が日本で大型投資に踏み切ると伝えられていることは下支え材料として投資口価格は回復しました。
 2020年10月期時点のNAV倍率は前期から大分上昇しました。Gotoトラベル、Gotoイートへの期待もあったことから投資口価格を押し上げていました。星野リゾート・リート投資法人が0.245倍上昇していますが、星野リゾート・リート投資法人は観光向けのリゾートホテルが主力なので行楽シーズンとなった場合の収益はやはり魅力的です。1倍を切っているうちに投資口を購入する判断は頷けます。オフィスビル・レジデンス・商業施設をバランスよく運用するプレミア投資法人も1倍を切っている状況では買い時と言えそうです。ただ、こちらは商業施設があり、コロナ環境下から抜け出した後に回復するスピードはホテルに劣ると考える方も多く、0.843倍に留まっていると考えられます。


・含み益
20210103J-REIT(4・10月決算)含み益推移
20210103J-REIT(4・10月決算)含み益推移2

 含み益は鑑定評価額-帳簿価格で算定しています。含み益においても、コロナウイルスの影響が出ているようでやはりホテルを多数運用する星野リゾート・リート投資法人、投資法人みらいの含み益の伸びが悪化しています。鑑定評価額が減少しているホテルが多くあります。星野リゾート・リート投資法人の場合は鑑定評価額の減少について特に規則性があるわけではないですが、星野リゾートグループ運営のホテルよりも星野リゾートグループ外のオペレーターを務めるホテルの方で鑑定評価額の下落が目立ちます。

星野リゾート・リート投資法人、鑑定評価額が前期よりも減少した物件

星野リゾートグループオペレーター物件
星のや竹富島 5,080百万円→4,970百万円
界 鬼怒川 3,340百万円→3,270百万円

星野リゾートグループ外オペレーター物件
ANAクラウンプラザホテル広島 18,800百万円→18,600百万円
ANAクラウンプラザホテル金沢 6,510百万円→6,270百万円
ANAクラウンプラザホテル富山 4,210百万円→4,080百万円
ハイアットリージェンシー大阪 15,700百万円→15,100百万円
ザ・ビー 赤坂 4,900百万円→4,710百万円
ザ・ビー 三軒茶屋 4,470百万円→4,310百万円
ザ・ビー 名古屋 4,400百万円→4,190百万円
ザ・ビー 神戸 6,710百万円→6,370百万円
クインテッサホテル大阪心斎橋 3,690百万円→3,450百万円
ソルヴィータホテル那覇 3,890百万円→3,820百万円


投資法人みらい、鑑定評価額が前期よりも減少した物件

ホテルサンルート新潟 2,360百万円→2,290百万円
ダイワロイネットホテル秋田 2,250百万円→2,190百万円 
コンフォートホテル新山口 963百万円→942百万円
伊勢シティホテルアネックス 1,840百万円→1,810百万円
コンフォートホテル北上 845百万円→826百万円
コンフォートホテル長野 601百万円→586百万円
ホテルウィングインターナショナルセレクト上野・御徒町 4,140百万円→4,020百万円
スマイルホテル那覇シティリゾート 4,040百万円→3,930百万円
スマイルホテル博多駅前 3,770百万円→3,610百万円
スマイルホテル名古屋栄 3,020百万円→2,920百万円
BizMiiX淀屋橋(旧BizMiiX淀屋橋) 1,580百万円→2,120百万円

 投資法人みらいのコンフォートホテル長野は帳簿価額が642百万円なので含み損が▲58百万円あることになります。これは減損すべきではないのでしょうか?。強気の予算で将来性プラスになることをアピールして監査法人からの監査を切り抜けたのかもしれませんが、有価証券報告書提出日までに減損処理を求められるかもしれませんね。

 他の投資法人については鑑定評価額について減少している物件は特に見受けられなかったので特に問題は無さそうです。


・稼働率
20210103J-REIT(4・10月決算)稼働率推移
20210103J-REIT(4・10月決算)稼働率推移2

 4月・10月投資法人の稼動率ですが軒並み減少傾向にあります。丁度退去しリーシング中という物件もあるでしょうが、賃料を減額するために引っ越しを行うテナントが多かったのではないでしょうか。特にトーセイ・リート投資法人の物件は都心でも離れた地域にあるので仮に退去しても他に入居できる物件が近くにあるとも考え辛いんですよね。いちごオフィスリート投資法人のような中小規模のオフィスビルのテナントについても他に退去して直ぐに入居できる物件は見つかるのだろうか?。インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人は現状は高稼働率を維持しています。
 一方レジデンスはというと、スターツプロシード投資法人、積水ハウス・リート投資法人ともにこちらも減少しています。引っ越しシーズンには早すぎるという感じなのでこれらはリモートワーク等で他に良い住処を探しての退去である可能性が有ります。
 プレミア投資法人は物件数が多いことで個別に稼働率が減少している物件があるもののオフィスビルは高稼働を維持しており、レジデンスは稼働率を下げている物件と下げている物件が混在しているため一概にコロナの影響とは言い切れないところです。