2021年6月期決算のJ-REITのNAV倍率、含み益、稼働率の推移を見ていきます。

・NAV倍率
20210904J-REIT(6.12月決算)NAV倍率推移
20210904J-REIT(6.12月決算)NAV倍率推移2

 2021年6月前半のJ-REIT市場は、堅調な動きになりました。国内で新型コロナウイルスのワクチン接種が徐々に進み、経済正常化を見据えた市場の回復期待が広がったことから、J-REIT市場は堅調な動きが続きました。株式市場に比べた割安感に加え、FTSE指数へのJ-REITの組み入れが予定されていること、また、長期金利が 0.0%台前半まで低下したことも市場を押し上げた模様です。東証REIT指数は10日に続き、14日にも年初来高値を更新、また、東証REIT指数(配当込み)は過去最高値を更新しました。その後は、高値警戒感が広がる中、米国の早期利上げへの警戒から、一旦値を下げましたが、下旬は買戻しが優勢になり、東証REIT指数は再び年初来高値を、東証REIT指数(配当込み)は過去最高値を更新する動きになりました。 
 NAV倍率で見ると、運用実績が長い投資法人については1倍を超えている水準となっています。日本プライムリアルティ投資法人はここ1年は1倍を下回ることが続いていましたが、1.135倍に回復しました。日本プライムリアルティ投資法人はコロナウイルスによるオフィスビルのダメージが一番初めに現れた投資法人です。(コロナウイルスの影響でテナントが退去)そのため大分オフィスビルの将来性について不安視されていましたが、結果的には稼働率は前期よりも減少しているとはいえ95%以上は達していることや引き続きオフィスビルを取得していく方針であることから、オフィスビルの収益性・安定性により投資家さんが戻ってきていると考えられます。CREロジスティクスファンド投資法人のような物流系J-REITは運用実績が見ずかくてもコロナウイルスによるダメージが受けにくいことを理由に引き続き上昇していくと考えられます。


・含み益
20210904J-REIT(6.12月決算)含み益推移
20210904J-REIT(6.12月決算)含み益推移2

 含み益は鑑定評価額-帳簿価格で算定しています。含み益はポートフォリオ全体を見るととインヴィンシブル投資法人が保有しているホテルを含みでも順調に積みあがっていると言えると思います。どのアセットタイプについても鑑定評価額が頭打ちとなっている状況です。しかし、日本ビルファンド投資法人の各物件の鑑定評価額は前期よりも高くなっている物件が多く東京都内のオフィスビルを中心に含み益は拡大しているようです。日本リート投資法人も小滝橋パシフィカビルなど一部の商業施設を除き同様です。足元では空室率が増加している状況なのですが、そこを狙って増床ニーズに上手くアプローチできていると言えるのではないでしょうか。2020年12月期から鑑定評価額が減少したジャパン・ホテル・リート投資法人とインヴィンシブル投資法人の宿泊施設は以下の通りです。


ジャパン・ホテル・リート投資法人の鑑定評価額が減少した物件

 ・箱根強羅温泉季の湯雪月花:5,300百万円→5,270百万円
 ・ドーミーイン熊本:3,030百万円→2,950百万円
 ・R&Bホテル上野広小路:1,910百万円→1,900百万円
 ・コンフォートホテル東京東日本橋:5,390百万円→5,350百万円
 ・ホテル フランクス:4,080百万円→4,040百万円
 ・アクティブインターシティ広島:21,000百万円→20,700百万円
 ・ホテル オリエンタル エクスプレス福岡天神:6,650百万円→6,480百万円
 ・ヒルトン名古屋:15,000百万円→14,800百万円
 

インヴィンシブル投資法人の鑑定評価額が減少した物件

 ・ホテルマイステイズ京都四条:9,960百万円→9,460百万円
 ・ホテルマイステイズ堺筋本町:4,000百万円→3,780百万円
 ・ホテルマイステイズ大手前:2,430百万円→2,410百万円
 ・ホテルマイステイズ清澄白河:1,500百万円→1,490百万円
 ・ホテルマイステイズ羽田:8,590百万円→8,390百万円
 ・ホテルマイステイズ亀戸P1:7,370百万円→7,210百万円
 ・ホテルマイステイズ亀戸P2:4,920百万円→4,820百万円
 ・ホテルマイステイズ心斎橋:2,580百万円→2,460百万円
 ・コンフォートホテル北見:923百万円→912百万円
 ・ホテルマイステイズ五反田駅前:23,900百万円→23,700百万円
 ・ホテルマイステイズ福岡天神:8,110百万円→7,990百万円
 ・ホテルマイステイズ浜松町:6,220百万円→6,120百万円 他

 不動産は個別性が高いということもあり、鑑定評価額が上昇している物件もあります。ホテルは営業を自粛していたり、そもそも緊急事態宣言・まん延防止等重点措置により宿泊者も減っているはずなのに鑑定評価額が高くなっているということは物件の収益性といった面よりも周辺地域の不動産マーケットの価格が影響しているようです。つまりホテルの経営は現状では厳しい状況ですが、ホテルの取引価格は安い訳では無いということです。インヴィンシブル投資法人はそれでも帳簿価額を上回る鑑定評価額が出ている物件も有るので鑑定評価額で売却することでかなり高い分配金を支払うことは可能ですが、スポンサーのためには投資家さんを資産はどうでも良いと考える資産運用会社の投資法人なので含み益もただの絵にかいた餅なんですよね。


・稼働率
20210904J-REIT(6.12月決算)稼働率推移
20210904J-REIT(6.12月決算)稼働率推移2

 6月・12月投資法人の稼働率はオペレーターに一括賃貸しているフロンティア不動産投資法人、CREロジスティクスファンド投資法人以外の投資法人は前期から稼働率を下げています。全体的にオフィスビルの退去が主な理由です。ですが、空き室の問い合わせ件数は増加傾向にあるため2021年12月期は多少は改善するのでないでしょうか。
 ここでも気になるのはジャパン・ホテル・リート投資法人とインヴィンシブル投資法人のホテル系J-REITコンビですが、ジャパン・ホテル・リート投資法人の月次の稼働率の推移は以下の通りです。

ジャパン・ホテル・リート投資法人の月次稼働率

 2021年6月、客室稼働率:32.0%、ADR:9,822円、RevPAR:3,146円
 2021年5月、客室稼働率:30.1%、ADR:11,690円、RevPAR:3,519円
 2021年4月、客室稼働率:33.4%、ADR:10,868円、RevPAR:3,632円
 2021年3月、客室稼働率:35.2%、ADR:11,320円、RevPAR:3,983円
 2021年2月、客室稼働率:26.6%、ADR:10,595円、RevPAR:2,817円
 2021年1月、客室稼働率:26.1%、ADR:10,658円、RevPAR:2,779円

 ホテルオリエンタルエクスプレス大阪心斎橋は2020年4月20日から、ホリデイ・イン大阪難波は2020年12月6日から臨時休館を実施されています。ザ・ビー池袋他1物件でコロナウイルス感染症無症状者及び軽症者の受け入れを行っていたりとサスティナビリティ活動にも間接的に貢献しています。2021年7月以降は東京都及び沖縄県における緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の影響はあるものの、夏のレジャー需要に加え、一部ホテルにおける東京オリンピック関連の需要もあり、改善を見込んでいるということなので劇的な改善はまだ先でしょうが期待は膨らみます。
 
インヴィンシブル投資法人の月次稼働率

 2021年6月、客室稼働率:38.1%、ADR:8,043円、RevPAR:6,320円
 2021年5月、客室稼働率:34.5%、ADR:7,567円、RevPAR:2,607円
 2021年4月、客室稼働率:40.0%、ADR:7,085円、RevPAR:2,836円
 2021年3月、客室稼働率:38.7%、ADR:7,362円、RevPAR:2,849円
 2021年2月、客室稼働率:30.2%、ADR:6,722円、RevPAR:2,033円
 2021年1月、客室稼働率:31.9%、ADR:6,477円、RevPAR:2,067円

 インヴィンシブル投資法人の国内ホテルについては13都道府県で緊急事態宣言、16道県でまん延防止等重点措置が適用されており、その期限はいずれも9月12日までとされています。全都道府県の6割がいずれかの対象となっていることからホテル需要に対しては一定の悪影響が懸念されています。あまり強くは言えませんが緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が出ていても外出される方はそれなりに存在していますし、かつインヴィンシブル投資法人はビジネスホテルも多いので思いがけず収益が改善する可能性はあります。それでも分配金として投資家さんに跳ね返ってくるかと言われるとそれは無いと思いますけどね。