2021年7月期決算のJ-REITのNAV倍率、含み益、稼働率の推移を見ていきます。

・NAV倍率
20211005J-REIT1・7月決算NAV倍率推移
20211005J-REIT1・7月決算NAV倍率推移2

 2021年7月のJ-REIT市場は、堅調な地合いが継続しました。国内の新型コロナウイルス感染拡大への警戒が広がる中、利益確定売りに押され、月初は続落して始まりました。その後は、相対的に高い利回りに着目した買いに加え、米国の早期金融緩和縮小への警戒が後退し、投資家心理が改善したことから、買いが優勢になり、東証REIT指数は7月6日まで3日連続で年初来高値を更新していました。東京都への緊急事態宣言の再発令は重しになったものの、コロナ後の経済正常化への期待も根強く、高値圏でのもみ合いが続いていました。
 NAV倍率で見ると、運用実績が長い投資法人については前期よりも上昇し1倍を超えている銘柄も多くなっています。1月・7月決算の投資法人の中ではホテル系J-REITのいちごホテルリート投資法人の一人負けというところです。また、運用期間が長く実績のある産業ファンド不動産投資法人、ケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人、コンフォリア・レジデンシャル投資法人、アドバンス・レジデンス投資法人も1倍を超え投資家さんの人気が集まっています。
 9月に入り菅総理が自民党総裁選に出馬しない意向を示したことで一時株価が上昇しましたが、J-REITの投資口価格は大きく下落しています。株価上昇を好機と捉えて利益確定に走った海外機関投資家による売りに押されたというところだと思っています。投資口価格は緊急事態宣言解除を受けて徐々にリテール・ホテルを中心とする投資法人を中心にじわじわ上昇してくるのではないかと考えています。


・含み益
20211005J-REIT1・7月決算含み益推移
20211005J-REIT1・7月決算含み益推移2

 含み益は鑑定評価額-帳簿価格で算定しています。鑑定評価額の帳簿価格の差は主に鑑定評価額(時価)が増減すること、帳簿価格は毎期減価償却費によって一定額が減少していきます。つまり鑑定評価額が変わらなければ、鑑定評価額の帳簿価格はひらいき含み益は増加していくことになります。含み損が発生するということは毎期減価償却費によって帳簿価格が減少しているにもかからず鑑定評価額の方が更に低いということになります。経済環境の変化によって不動産の価格が下がることで引き起こされます。(2007年~2010年ではリーマンショックによって不動産価格が下落しJ-REITも鑑定評価額が下落しました)最近では新型コロナウイルスの影響によりホテルや商業施設を中心に鑑定評価額が下落している傾向にあります。しかし、物流施設やレジデンスは影響が少なくアセットタイプにより不動産マーケットの価格に違いが表れています。
 ですが、たまに物件個別で含み損が発生している物件が存在する場合があります。こういった場合はJ-REITの資産運用会社が高値で物件を取得してしまったがために起こる人災です。人災と言い切る理由は、取得価格+物件取得費用=帳簿価格となるためそもそもの取得価格が高いためです。高値の物件でも取得してしまう理由は、スポンサーから物件を買うからにほかなりません。


いちごホテルリート投資法人の鑑定評価額が減少した物件

 ・ホテルウイングインターナショナル名古屋:2,580百万円→2,470百万円
 ・チサンイン大阪ほんまち:1,300百万円→1,200百万円
 ・ネストホテル大阪心斎橋:5,730百万円→5,460百万円
 ・コンフォートホテル鈴鹿:378百万円→359百万円

 2021年7月期は2021年2月~2021年7月までが運用期間となりますが、いちごホテルリート投資法人は何故か鑑定評価額が上がっている物件も何棟から見られねるんですよね。前期、前々期でかなり鑑定評価額が下がっているので下げ切ったということも言えますが、緊急事態宣言やまん防が東京都をはじめ主要都市で発令さている中で鑑定評価額が上昇するというのは何か作為的なものを感じます。


・稼働率
20211005J-REIT1・7月決算稼働率推移
20211005J-REIT1・7月決算稼働率推移2

 1月・7月投資法人の稼働率は大まかには減少傾向にあるといえます。オフィスビルよりもレジデンスの稼働率に顕著に表れていると思います。立地によりかなりバラつきがあるものの、高級賃貸マンションに住む家庭はある程度減少しているのであろうと考えざるを得ません。多くは新型コロナウイルスによる影響で転勤になったり、リストラにあうご家庭もあったのではないでしょうか。よくニュースである熱海のリゾートマンションが人気みたいなものがありますがそういったことを選択する人はかなり稀でシングルの人が多いので、マンション居住者→リゾートマンションで悠々自適な生活と単純に動く訳ではないのでその点については騙されないで頂きたいです。稼働率が90%未満の各投資法人のレジデンス物件は以下の通りです。
 

アドバンス・レジデンス投資法人
 
 レジディア天神橋:89.7%、(所在地:大阪府北区)
 レジディア久屋大通Ⅱ:86.8%、(所在地:愛知県名古屋市)
 レジディア泉:89.3%、(所在地:愛知県名古屋市)
 レジディア久屋大通:86%、(所在地:愛知県名古屋市)
 レジディア札幌駅ノース:89%、(所在地:北海道札幌市)


コンフォリア・レジデンシャル投資法人

 コンフォリア西蒲田:89.5%、(所在地:東京都大田区) 
 コンフォリア南青山:83.5%、(所在地:東京都港区) 
 コンフォリア北参道:89.8%、(所在地:東京都渋谷区) 
 コンフォリア両国トロワ:87.8%、(所在地:東京都墨田区) 
 コンフォリア木場親水公園:85.2%、(所在地:東京都江東区) 


ケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人

 KDX南青山:73.1%、(所在地:東京都港区) 
 KDXレジデンス代官山Ⅱ:79.7%、(所在地:東京都渋谷区)
 KDXレジデンス西馬込:89.1%、(所在地:東京都大田区) 
 KDXレジデンス両国:85.8%、(所在地:東京都墨田区) 
 芦屋ロイヤルホームズ:83.8%、(所在地:兵庫県芦屋市) 


サムティ・レジデンシャル投資法人

 S-FORT中島公園:88.5%、(所在地:北海道札幌市) 
 S-FORT福島EBIE:88.9%、(所在地:大阪府大阪市) 
 S-FORT熱田花町:89.2%、(所在地:愛知県名古屋市) 
 S-FORT水前寺:86.5%、(所在地:熊本県熊本市) 
 S-FORT熊大病院前:86.3%、(所在地:熊本県熊本市) 
 S-FORT熊本船場:84.4%、(所在地:熊本県熊本市) 
 S-FORT元浜:88.2%、(所在地:静岡県浜松市) 
 S-FORT江坂LIBERTS:86.9%、(所在地:大阪府吹田市) 
 S-FORT錦糸町:87.7%、(所在地:東京都墨田区) 


スターアジア不動産投資法人

 アーバンパーク麻布十番:87%、(所在地:東京都港区) 
 アーバンパーク難波:80.4%、(所在地:大阪府大阪市) 
 アーバンパーク護国寺:72.6%、(所在地:東京都豊島区) 
 アーバンパーク緑地公園:85.3%、(所在地:大阪府吹田市) 
 アーバンパーク高円寺:89.3%、(所在地:東京都杉並区) 
 アーバンパーク代々木:76.9%、 (所在地:東京都渋谷区) 


 稼働率ベースで見るとかなり東京都内のレジデンスの稼働率が極端に減少しています。3~6ヶ月もあればリーシングを完了して欲しいところですが、90%以上にもっていくことが中々出来ていない状況です。特にスターアジア不動産投資法人はレジデンスの運用は苦手なようでアーバンパーク緑地公園は取得時点でも90%切っています。
 1棟ごとに詳しくみていくと空室が埋まりその後、別の部屋で退去があったという訳ではなく純粋にまだ募集中となっている部屋が続いているものばかりです。9月末で緊急事態宣言が解除されたことでこれまで県の移動を控えていた方々の影響で地方から東京圏に引っ越してくる方が増えてくることが考えられるので各投資法人はリーシングにさらに注力して欲しいですね。それでも運用物件数ベースで見ると約270棟運用しながら90%未満の物件が5棟しかないのは運用レベルが高いと言えそうです。