2021年8月期決算のJ-REITのNAV倍率、含み益、稼働率の推移を見ていきます。

・NAV倍率
20211103J-REIT(2・8月決算)NAV倍率推移
20211103J-REIT(2・8月決算)NAV倍率推移2

 2021年8月は、新型コロナウイルスの変異株の感染拡大が続く中、緊急事態宣言の対象地域拡大や、期間の延長などが重しになり、東証REIT指数は3日まで4営業日続落しました。その後は国内の長期金利が一時ゼロ%まで低下、米長期金利も 1.1%台まで低下するなど内外の金利低下が顕著になる中、J-REITの相対的な利回りの高さに着目した買いが入り、5日には東証REIT指数は約1か月ぶりの高値を付けました。利食い売りに上値が抑えられる展開が続きましたが、押し目買いも入り、下値も限定的でした。8月後半は、高値圏での一進一退の展開が続きそうです。新型コロナの感染拡大は重しながら、長期金利がゼロ%付近での低位で推移する中、利回り商品としてのJ-REITの投資妙味が増していることに加え、経済正常化への根強い期待などが、引き続き市場を支えました。J-REITの分配金が安定していることも安心材料です。米金融当局によるテーパリング(米国債などを買い入れる量的緩和の縮小)が11月中旬か12月中旬に開始が検討されており、金融市場が不安定になることには注意が必要です。

 NAV倍率で見ると、全体的に前期に比べて上昇傾向にあります。運用上は苦戦が続いているホテル系J-REITも投資口価格が上昇傾向にありました。2021年10月に入ってからはJ-REIT全体で投資口価格は振るってはいませんが、新型コロナワクチンの2回目の接種が終了した方も増えており、飲食業、観光業の回復を期待している投資家さんも多いようです。そんな中で相変わらず物流系J-REITはNAV倍率はバラつきはあるものの高い水準と言っても良いと思います。物流施設は開発にそれなりのノウハウが必要な点、テナント候補を見つけることが難しい点、開発には広い土地が必要な点といったところでベンチャー不動産企業が安易に手を出せるアセットではありません。また、取得してからの賃貸事業費用(PM・BMフィー、修繕費など)が他のアセットよりも安いという点が魅力です。J-REITだけでなく、不動産株式に不信感・アレルギーがある方は不動産業界というよりもマンション・戸建のディベロッパーや賃貸仲介会社が嫌いなのではないでしょうか?。マンションやアパートは開発から管理から有象無象の会社が多いのも事実なのでそういった方は物流施設に特化したJ-REIT銘柄は検討できるものだと思います。


・含み益
20211103J-REIT(2・8月決算)含み益推移
20211103J-REIT(2・8月決算)含み益推移2

 含み益は鑑定評価額-帳簿価格で算定しています。不動産売却損を計上して売却した物件が存在することから鑑定評価額が高くでも必ずしもその鑑定評価額=不動産マーケットの時価となっている訳ではありません。しかし、実務的には鑑定評価額が不動産売買における売却価格決算の目安となっていることは事実です。2021年8月期は日本都市ファンド投資法人が3棟の物件を売却しその内1物件で大きな売却損が発生しています。特に日本都市ファンド投資法人やいちごオフィスリート投資法人等の一部の投資法人は物件を複数売却し個々の物件の売却損益を明らかにしない政策をよく採っています。(今回売却した物件はイオンモール大和の準共有持分50%、イオン高槻、イトーヨーカドー四街道店。イトーヨーカドーは良いとしてイオングループとは引き続き取引もありるため気を使った可能性もありますが)

 価値の低い物件の売却損と価値ある物件の売却益を相殺し「プラマイゼロしょ。なんなら少し売却益がプラスだからいいしょ。」という安易な発想です。こういった政策を採っているこ自体資産運用会社としてどうなのか?と思います。価値ある物件を売却損と相殺目的で売却しているので投資法人の資産価値を毀損していると思うのですが、築年数が古いだの、元々立地的にリーシングが難しいだの理由をつけています。元を正すとそもそも売却損が大きく計上されてしまうような物件を買うなという話なのですが、スポンサーの力が強いほど、スポンサーからパラシュート的に幹部もしくは権限を持った社員降りてくる資産運用会社ほどこの傾向が強くなります。


・稼働率
20211103J-REIT(2・8月決算)期末稼働率推移
20211103J-REIT(2・8月決算)期末稼働率推移2

 2月・8月投資法人の稼働率は減少傾向にあります。オフィスビル、レジデンスともに減少傾向にあると言って良いと思います。皆さんのご自宅のオフィスビルやマンションでも空きが増えているのではないでしょうか?。特にオフィスビルは分かりやすいと思います。別の記事でも述べていますが、中小規模のオフィスビルでテナントの退去が目立っています。雇用調整等助成金などで特をしているテナントも多いのですが不動産企業や投資法人には何の保証も無いのが厳しいですね。本当に業績悪化を理由にテナントが退去しているのかは怪しいものです。営業しない方が利益が出る企業もあるようなで特に飲食業ではこれが顕著なので商業施設が主力の投資法人で稼働率が思いの他低くならなかったのは賃料を支払ってもまだ余裕があったということです。話がそれてしまいましたが、中小オフィスビルの売却は競合のビルも多いため内見の問い合わせはあるが中々成約に結びつかないという点が今は多いようです。

 しかし、2月・8月投資法人で賃貸ベースではなく、実テナントベースで稼働率が悪いのはホテルが主力アセットである森トラスト・ホテルリート投資法人ですね。せめて運用物件の半数以上が宿泊施設である場合は〇〇百万円的な補助金を投資法人にも検討して頂きたかったですね。実際はテナントが受給してそれを賃料として間接的に収受していると言えないことは無いですけど。

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発令による影響で思うように営業ができなかったということが主な理由ですが、稼働率は厳しい水準でした。2021年9月末に緊急事態宣言が解除になったことで2022年8月期は回復してくることになると思いますが復活までにはまだ遠いといった感じですね。ただ、スポンサーの森トラスト㈱が運用している「ラフォーレ倶楽部」という福利厚生サイト経由での集客が貢献していたという実績もあり、他と違ったアプローチをしている点については注目ですね。