2023年2月期決算のJ-REITのNAV倍率、含み益、稼働率の推移を見ていきます。
・NAV倍率
2023年2月はレンジでの動きの中、やや上値の重い展開が続きました。長期金利の上昇は重しになったものの、値ごろ感からの買いも入り、一進一退の動きが続いていましたが、その後は日銀の黒田総裁の後任人事をめぐる思わくに、振らされる動きになりました。日銀の黒田総裁の後任に雨宮副総裁ではなく、経済学者で元日銀審議委員の植田氏を起用すると伝わり、新総裁下での金融政策の不透明感が広がり、売りに押されました。もっとも、下げる場面では押し目買いも入り、底堅く推移しました。年明けからJ-REITは全体的に投資口価格は上がりませんでしたから個人投資家さんにとっては買い時だったのかもしれません。でも2月の段階では長期金利の上昇を懸念していた方も多く取得した方は少ないのかなといった印象です。J-REIT各社の投資口価格が上がってくるのはオフィスビルの稼働率が上がってきたということが実感できなければ厳しいでしょうね。
2月・8月決算の投資法人のNAV倍率は上記のこともあり弱含みとなりました。GLP投資法人が1倍を割ってしまっていますからね。それでも三菱地所物流リート投資法人は1倍を辛うじて上回っていますがそれでも前期よりも減少しています。物流施設はもはや一番景気に左右されにくいアセットということが分かっていると思っていたのですが、日々投資口価格が下がっていくところを見ていられなかった方も多かったのではないでしょうか。
・含み益
物件入替えによる多少の変動はあるものの含み益は積みあがっているが分かります。帳簿価額よりも鑑定評価額が高くなっている物件は多いですが、取得時の鑑定評価額より直近の鑑定評価額が上昇しているケースとなるとぐっと数は少なくなってきます。運用物件の三分二が取得時の鑑定評価額がぼぼ変更無、残り三分の一が低くなっています。AIやDXの進捗で不動産業界で何が変わったか?というと、その会社の「過去のやらかし」が浮き彫りになってきていると感じます。私が入社する前に既に退職された方が在籍していた時に高値で取得した物件を売却しなくてはならなかったり、リスクについての手当がなされていない重要説明事項や賃貸借契約書、物件売買契約書を見つけてしまう。というようなことです。その過去のやらかしによるリスクが顕在化し鑑定評価額に反映されてきていると感じます。
上場しているJ-REITだからこそ減損会計という厳しいルールのもと決算期ごとに簿価を切り下げられるためこれによって翌期は簿価が下がっているため物件売却のハードルは下がるのですが、特に未上場の企業やファンドの場合、減損損失を回避するためあの手この手で誤魔化しているんだろう。という気がします。未上場の不動産ファンドの場合は物件売却後の手当についてリスクを回避していなかったりするケースがあります。今は鑑定評価額が帳簿価額よりも高くなっていますが、ある日突然・・・といった可能性もゼロではありません。
・稼働率
コロナの影響により低くなったオフィスビルの稼働率は、ヒューリックリート投資法人はリーシング強化物件を絞って運用会社を上げてリーシングを実施しています。これにより稼働率は戻ってきているのでこの作戦は成功だと思います。2023年2月期は虎ノ門ファーストガーデン、ヒューリック虎ノ門ビルの2棟に注力しました。虎ノ門というビジネスエリアもコロナによる影響は厳しかったということが改めてよく分かります。虎ノ門ファーストガーデンは特にひどく、数フロア利用テナントの解約により稼働率は57.1%に低下しています。立地やビルグレードの高さ複数テナントによる引き合いがあるようで、埋戻しによりテナント分散を進展させようとしています。ヒューリック虎ノ門ビルは入居・退去が相次いでいます。2021年9月に店舗区画で解約が発生したものの、2022年4月に埋戻しが完了し、その後2022年9月に事務所区画の解約が発生しましたが、周辺オフィスに入居する企業の立地改善ニーズを取り込み、2023年2月に埋戻しが完了していおり2023年2月末は100%で着地しました。
日本都市ファンド投資法人ではツイン21OBPパナソニックタワーの大規模空室の室に一定の目途がついたようなそぶりを見せていますが、引き続き予断を許さない状況というのが正直な現状だと思います。一棟を丸々1テナントにリーシングにするつもりのようですが、2024年3月末の返床区画(約6,000坪)の大半も後継テナント候補と具体的な協議中としつつも何が具体的なのかは分からないので一部のみのリーシングである可能性も残されていると考えるべきでしょう。ツイン21のもう一方、MIDタワーは2023年5月末、大型テナントが約600坪超退去予定となっていますが、退去区画の約9割は、後継テナントと増額で契約締結予定としており、こっちは望みがありそうですね。
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